循環器疾患をお持ちの方の便通について知っておきたいこと
便秘と心不全・高血圧|循環器疾患をお持ちの方の便通について知っておきたいこと
愛知医科大学医学部名誉教授(消化管内科)
メイトウホスピタル 副理事長
消化器内科医師 春日井邦夫
はじめに
「最近、便が出にくい」「お通じのときにしばらく頑張ってしまう」――心不全や高血圧で通院されている方の中に、こうしたお悩みを抱えていらっしゃる方がいらっしゃいます。
便秘は単なる消化器の症状と思われがちですが、循環器疾患をお持ちの方には、ご自身の体調管理の中で意識しておきたいテーマの一つです。この記事では、便秘と循環器疾患の一般的な関わり、ご自宅でできる工夫、医療機関にご相談いただく目安について、わかりやすくご紹介します。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状やお薬についてのご判断は、必ず主治医にご相談ください。
便秘とは
慢性便秘症診療ガイドラインでは、便秘は「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便,排便回数の減少や,糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責,残便感,直腸肛門の閉塞感,排便困難を認める状態」と定義されています。慢性便秘症は「慢性的に続く便秘のために日常生活に支障をきたしたり,身体にも様々な支障をきたしうる病態」とされています。
便秘症の診断基準は、以下の6項目のうち,2項目以上を満たすものです.
- 排便の4分の1超の頻度で,兎糞状便または硬便(BSFSでタイプ1か2)である.
- 自発的な排便回数が,週に3回未満である.
- (怒責):排便の4分の1超の頻度で,強くいきむ必要がある.
- (残便感):排便の4分の1超の頻度で,残便感を感じる.
- (直腸肛門の閉塞感・困難感):排便の4分の1超の頻度で,直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある.
- (用手的介助):排便の4分の1超の頻度で,用手的な排便介助が必要である(摘便・会陰部圧迫など).
数日に1回でも、すっきり排便できていて違和感がなければ問題ない場合もあります。一方、毎日便通があっても残便感が続く方は、便秘の状態と言える場合があります。
便秘と循環器疾患の関わり
◆ 1. 排便時のいきみと心臓・血管の関係
排便時に強くいきむこと(医学用語では「努責」)の際には、一時的に血圧や脈拍、心臓への負荷が変動することが知られています。これは「バルサルバ反射」と呼ばれる体の反応で、健康な方でもみられます。
- 心不全のある方は、心臓への負担に配慮が必要な場面があります
- 高血圧の管理状況や既往歴によっては、強いいきみを避けるよう指導されることがあります
- 弁膜症や不整脈のある方も、状況によって配慮が必要な場合があります
「トイレで息んだら胸が苦しくなった」「立ち上がったらふらついた」という経験のある方は、ご自身の状態の把握のためにも一度主治医にご相談ください。
◆ 2. 慢性便秘と循環器疾患に関する研究について
一部の観察研究では、慢性便秘と心血管疾患リスクとの関連が報告されています。ただし、これらの研究は年齢、基礎疾患、生活習慣、服薬状況などの影響を受ける可能性があり、便秘そのものが心血管疾患の原因であると確立されたものではありません。
「便秘を治せば心血管疾患が予防できる」という単純な話ではありませんが、便秘が続く場合は、ご自身の体調や生活習慣を見直すきっかけとして主治医にご相談いただくとよいでしょう。
◆ 3. 服用中の薬と便秘について
循環器疾患の治療で使われるお薬の中には、薬剤によっては便秘に影響することがあります。気になる場合は処方医にご相談ください。
便秘が気になるからといって、自己判断でお薬を中止することは絶対に避けてください。心不全や高血圧のコントロールが乱れる方が、より大きな問題につながります。便秘でお困りの場合は、必ず主治医にご相談のうえで対応をご検討ください。
受診を検討していただきたい症状
◆ 早めに医療機関にご相談いただきたい症状
以下の症状がある場合は、自己判断せず、医療機関に相談してください。
- 胸痛、強い息切れ、冷汗、意識が遠のく感覚を伴う場合は、救急相談窓口(#7119等)への相談や救急受診をご検討ください
- 激しい腹痛
- 血便(赤い血、または黒色便・タール便)
- 急にお腹が大きく張って苦しい
- 嘔吐を繰り返す
◆ 診療時間内に早めの受診をご検討いただきたい症状
- 急に便秘になった(特に50歳以降)
- 体重が急に減った
- 排便のパターンが急に変わった
- 1週間以上便が出ない
- 排便時に強くいきむと胸の症状が出る(軽度なものを含む)
ご自宅でできる便通ケア
循環器疾患をお持ちの方が便通を整えるための、一般的な工夫です。心不全で水分・塩分制限がある方は、特に主治医の指示を優先してください。
◆ 食事の工夫
- 食物繊維を意識する(野菜・海藻・きのこ・豆類)
- 朝食を抜かない(胃結腸反射でお通じを促しやすい)
- 急に食物繊維を大量に増やすと、お腹の張りが出ることがあります。少しずつが基本です
◆ 水分の摂り方(要注意)
【心不全で水分制限を受けている方へ】
水分摂取量については、便秘対策として自己判断で増やさないでください。心不全の悪化につながる場合があります。1日の水分量については必ず主治医にご相談ください。
水分制限がない方は、こまめな水分摂取が便を柔らかくする助けになる場合があります。
◆ 運動の工夫
- 無理のない範囲でのウォーキング
- 椅子に座ったままでもできる足踏み運動
- 体調のよい時に、無理のない範囲で腹部をやさしくマッサージ(「の」の字に)
ただし、心不全や狭心症で運動制限がある方は、主治医に確認した範囲内で行ってください。胸痛・息切れ・動悸を感じたら直ちに中止してください。
◆ トイレでの姿勢
- 足元に小さな台を置き、軽く前傾姿勢になると腹圧をかけやすくなります(強くいきまずに済む)
- 便意を我慢しない
- 毎日同じ時間にトイレに座る習慣をつける
◆ 力まないコツ
- 出ない日は無理せずトイレを離れる
- 数日続いて出ない場合は、自己判断で強い下剤を使わず、主治医にご相談ください
当院でできること・専門医療機関への紹介について
当院の内科外来では、便秘症状に関する一般的な問診、服薬状況の確認、生活指導を行います。診療は保険診療の範囲で対応しています。
心不全・狭心症・不整脈など循環器疾患の専門的判断が必要な場合は、主治医または循環器専門医療機関への相談・紹介を行います。症状や経過により、必要と判断した場合には消化器内科等の医療機関への紹介を検討します。
慢性便秘症に対しては複数の薬剤が使用されることがあります。薬剤の選択は、年齢、腎機能、心不全の状態、併用薬、症状の程度などを踏まえて医師が判断します。
「便秘だけで受診するのは気が引ける」と感じる方もいらっしゃいますが、循環器疾患をお持ちの方の便秘は、心臓や血管にも関わる症状です。次回の外来の際にも、お気軽にご相談ください。
よくあるご質問
Q1. 市販の下剤を使っても大丈夫ですか?
A. 短期間の使用で問題ない場合もありますが、長期に使うと依存性が出るタイプの下剤もあります。心不全や高血圧でお薬を服用されている方は、まず主治医にご相談ください。
Q2. 便秘は治る病気ですか?
A. 原因は人によって異なります。生活習慣の見直しで改善する方もいれば、医学的な治療が必要な方もいます。続く場合は原因の確認が大切です。
Q3. 食物繊維を増やしすぎても大丈夫ですか?
A. 急に大量に増やすと、お腹の張りや不快感が出ることがあります。少しずつ増やすのが基本です。
まとめ
- 排便時に強くいきむことは、循環器疾患をお持ちの方では血圧や心臓への負荷の変動に配慮したいポイントです
- お薬によっては便秘に影響する場合があります。自己判断で中止せず主治医にご相談ください
- 心不全で水分制限がある方は、便秘対策の水分摂取も主治医に確認を
- 胸痛・強い息切れ・冷汗を伴う症状は救急相談・救急受診を、激しい腹痛・血便・黒色便も早めに医療機関へ
- 「便秘だけで」と遠慮せず、外来でもお気軽にご相談ください
■ 補足
本記事は、医療広告ガイドライン(厚生労働省・令和6年改訂)への準拠を確認のうえ作成しております。患者さまへの不安喚起、効能効果の断定、比較優良広告等を避けるよう配慮しておりますが、循環器領域のご専門の視点から、医学的に不正確・不適切と思われる箇所がございましたら、忌憚なくご指摘いただけますと大変ありがたく存じます。
ご多用のところ大変恐縮ですが、何卒よろしくお願い申し上げます。
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