高血圧の薬物療法を理解しよう
高血圧では生活習慣とともに薬物療法を組み合わせることが一般的です。一方で、なぜ薬物療法が必要なのか?どのような薬物治療があるか?その使い分けは?など疑問点も多いと思います。この記事ではそういった疑問点を解決すべく薬物療法を詳しく説明したいと思います。
高血圧の原因
高血圧は、生活習慣が原因と考えられる本態性高血圧と、甲状腺や副腎などの病気を起因とする二次性高血圧に分けられます。二次性高血圧では原因となる病気が解決すれば高血圧が治ることが多いですが、本態性高血圧では原因と考えられる生活習慣の改善を行っても血圧が十分に下がらないことがあります。その様な場合の選択肢となるのが薬物療法です。
なぜ血圧を下げる必要があるのか?
血圧が高い状態が続くと、心臓から出た血液が通る血管の壁に負担がかかります。そして血管の壁に負担がかかり続けると、動脈の壁が固くなり(動脈硬化)、心筋梗塞や脳出血など様々な重度の疾患につながります。よって、症状が出ていない状態でも、血圧が基準値を超えており、主治医の先生が必要と判断した場合に薬物療法が開始されます。
高血圧の主な薬物療法
高血圧で第一選択となるのは、カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、利尿薬、β遮断薬(含αβ遮断薬)の5種類です。これらの薬剤はそれぞれ作用機序が異なります。
|
主な薬剤名 |
作用機序 |
Ca拮抗薬 |
ノルバスク、アムロジン、ニフェジピン、ヘルベッサーなど |
心臓や血管の収縮につながるカルシウムイオンが血管に入ることを抑え、血圧を低下させます |
ARB |
ミカルディス、ディオバン、ブロプレス、ニューロタン、オルメテックなど |
アンジオテンシンIIがその受容体に結合することで血管を収縮させ血圧を上昇させます。このアンジオテンシンIIの受容体への結合を妨げ血管を広げることで血圧を低下させます |
ACE阻害剤 |
セタプリル、ゼストリル、タナトリル、コバシルなど |
血管を収縮させたり、腎臓でのナトリウムや水分の排出を押さえて血液量を増やすアンジオテンシンIの産生を抑え、血管を広げて血圧を低下させます |
利尿薬 |
ナトリックス、アルダクトン、フルイトラン、ラシックスなど |
腎臓で、塩分と水分を外に出すことで血圧を低下させます |
β遮断薬 |
テノーミン、メインテート、ロプレソール、インデラルなど |
心臓に作用して心臓から出る血液の量を抑えて血圧を低下させます |
主要降圧薬の積極的適応
高血圧治療のガイドラインにおいて患者さんの症状に応じて、主要降圧薬の積極的な適応が推奨されています。具体的には以下の左心室肥大、心不全、頻脈などによって各薬剤が推奨されています。
Ca拮抗薬 | ARB/ACE 阻害藥 |
サイアザイド系 利尿薬 |
β遮断薬 | |
左室肥大 | 🔵 | 🔵 | ||
LVEFの低下した 心不全 |
🔵※1 | 🔵 | 🔵※1 | |
頻脈 | 🔵 | 🔵 | ||
狭心症 | 🔵 | 🔵※2 | ||
心筋梗塞後 | 🔵 | 🔵 | ||
蛋白尿 / 微量アルブミン尿 を有するCKD |
🔵 |
※1少量から開始し, 注意深く漸増する ※2 冠攣縮には注意
JSH2019ガイドライン P77 https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_hp.pdf
一方、これらの積極適応がない場合の高血圧に対しては、最初に投与すべき降圧薬として、Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、利尿薬から選択することが推奨されています。単剤で効果が出ない場合は、患者さんの状況や血圧に応じて薬剤の併用が検討されます。
主要降圧薬の禁忌や慎重投与となる病態
また、各薬剤のこれまでの臨床試験の結果などを踏まえて、患者さんの状況や合併症によって、薬剤を投与すべきでない禁忌や、注意して投与することが必要な慎重投与となる薬剤が定められています。
禁忌 | 慎重投与 | |
Ca拮抗薬 |
徐脈 |
心不全 |
ARB | 妊娠 | 腎動脈狭窄症 *1 高カリウム血症 |
ACE阻害薬 | 妊娠 血管神経性浮腫 特定の膜を用いるアフェ レーシス/血液透析 *2 |
腎動脈狭窄症 *1 高カリウム血症 |
サイアザイド系利尿薬 | 体液中のナトリウム, カリウム が明らかに減少している病態 | 痛風 妊娠 耐糖能異常 |
β遮断薬 | 喘息 高度徐脈 未治療の褐色細胞腫 |
耐糖能異常 閉塞性肺疾患 末梢動脈疾患 |
*1 両側性腎動脈狭窄の場合は原則禁忌 *2 5章 5. 「3) ACE阻害薬」 を参照
JSH2019ガイドライン P77 https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_hp.pdf
おわりに
以上、この記事では高血圧の薬物療法について説明しました。高血圧の薬物療法には様々な作用機序の薬剤があり、患者さんの状態や状況、合併症などに応じて薬剤の選択が異なります。主治医の先生と相談しながら最適な薬物療法を模索しましょう。そのほか処方薬服用の際の一般情報や、高血圧治療薬の副作用やほかの薬との飲み合わせの注意事項などの詳細はこちらに記しています。
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メイトウホスピタル 循環器内科 加藤公彦
(毎週火曜日・水曜日外来担当)
次の記事では、高血圧に対する食事のポイントと実践についても詳しく紹介していきたいと思います。
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参考ページ
当院のブログでは高血圧症関連の情報を配信しています。
・高血圧の症状をセルフチェック。対策しよう!
・高血圧に対する食事のポイントと実践
・高血圧と運動療法
・高血圧の薬物療法を理解しよう
・高血圧症と薬物療法 その2
・高血圧 コーヒー1杯に驚きの真実
・冬の気温と血圧の関係:あなたの健康を守るために
・サプリメントだけではない:血中EPA/DHA濃度測定の重要性高血圧
・健康を守る飲酒術を身に着けよう:あなたの飲酒ガイド高血圧
・高血圧症の診断と治療について知っておきたいこと