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パーキンソン病の構音障害に対して、 新しいリハビリの効果が立証されました

[2024.08.19]

パーキンソン病は、運動機能障害の中でも、特に発話や声に影響を与える構音障害が知られています。最近、パーキンソン病患者の構音障害に焦点を当てた新たな研究結果が発表されました。この記事では、その研究成果をご紹介します。文末には詳細な研究情報ものせているので、詳細を知りたい方は最後までお読みください。

 

パーキンソン病とは何か?

パーキンソン病は、進行性の神経変性疾患で、脳内の特定の細胞が徐々に失われていくことにより引き起こされます。この病気は、構音障害などの運動機能の低下のみならず、認知症、うつ病、不安症といった非運動症状も引き起こします。

★ 詳しくは下記ページをご覧ください。当院でパーキンソン外来を担当している斎木英資先生が解説しています。
  早めの治療開始が大切!パーキンソン病の早期診断と治療 

★ 当院で行っているパーキンソン病のリハビリプログラムは下記をご覧ください。
  パーキンソン病のリハビリテーション 

 

構音障害の治療背景

パーキンソン病における一般的な運動症状である構音障害は、しばしば声の明瞭性や発声の力を低下させます。コミュニケーション、社会活動参加に悪影響を及ぼし、偏見、社会的孤立、生活の質(QOL)の低下につながる可能性があり、治療が注目されています。これまで、構音障害の治療にはドパミン作動性薬剤、視床下刺激手術、言語療法(SLT)が使用されてきました。しかし、ドパミン作動性薬剤は個人差が大きく、視床下刺激手術は症状を悪化させることもあります。言語療法(SLT)に関しては、これまでのエビデンスは不十分で、その有益性には疑問が残されていました。

 

パーキンソン病の言語療法(SLT)とは

 言語療法(SLT)は、コミュニケーション障害を緩和することを目的としています。SLTは、様々な運動技能やコミュニケーション技術を訓練することで、パーキンソン病患者がより効果的にコミュニケーションを取れるよう支援するものです。その中でもリー・シルバーマン音声療法(LSVT LOUD)は、特にパーキンソン病患者の声の大きさと発声の質を改善することを目指したプログラムです。この療法は、声の強さを持続的に向上させるための集中的な訓練をおこなうことで、話す際の自信と明瞭さを取り戻す手助けをします。今回の研究では、リー・シルバーマン音声療法(LSVT LOUD)のリハビリ成果が特に注目されました。

 

実験概要

PD COMM collaborative group が実施した「PD COMM試験」で、パーキンソン病患者の構音障害の治療において、リー・シルバーマン音声治療 (以下LSVT LOUD)は、従来の標準的な(国民保健サービス の)言語聴覚療法を行う場合や、リハビリを行わない場合と比較して、構音障害の軽減に有効なことが示されました。これは、パーキンソン病患者の声の問題に対する影響を著しく改善することが確認されたもので、言語療法の新たな可能性を示しています。

 

実験方法

特発性パーキンソン病と診断され、発話または発声の問題がある思者 388例 (平均年齢約70歳)を、次の3つのグループに分けて比較研究を行いました。

①LSVT LOUD(リー・シルバーマン音声療法)を受ける群 ②NHS SLT(標準的な言語療法)を受ける群 ③ No SLT(言語療法無し)の群

 

LSVT LOUDとNHS2種のリハビリ実施方法

・LSVT LOUDは、1回50分のセッションで構成され、週4回を4週間、対面または遠隔で治療を実施します。自宅での練習は、治療日は1日1回 (5~10 分)、非治療日は1日2回 (15分まで)としています。

・NHS 標準的な言語聴覚療法は、参加者のニーズに応じて地域のセラピストが決定した。(今までの研究から平均週1回を6-8週間、実施すると推定された。また、言語療法は、LSVT LOUDのプロトコールに含まれるものを除き、現地で実施されたものを採用した)。

当院でのLSVTプログラム内容はこちら
・ 運動障害に対する治療法LSVT-BIGの情報はこちら

 

結果

患者の自己申告によってコミュニケーションの困難さを評価する尺度 WHI(voice handicap index)で比較し、LSVT LOUD 治療を行った患者たちは、標準的な言語聴覚療法を行った、または言語療法をおこわなかった患者たちと比べ改善度が有意に良好で、WHI尺度のサブスケールである感情・機能・身体的側面についても良好な結果が得られた。

※WHI(voice handicap index)尺度とは、患者が自己報告するコミュニケーションの困難の度合いを0から120のスケールで測定し、スコアが低いほどコミュニケーション能力が高いことを示すものです。

 

有害事象

声のかすれは、LSVT LOUD 群で28%、言語聴覚療法群で12%発生したが、重篤な有害事象の報告は無かった。

 

まとめ

  • この試験では、LSVT LOUDが、言語療法なしまたは標準的な言語療法よりも、構音障害の影響を軽減するのに効果的であるという証拠が示されました。

  • 標準的な言語療法は、治療を受けない場合と比較して、効果があるという証拠は示されませんでした。

  • この試験は、パーキンソン病患者に対する言語療法リソースの活用を最適化する必要性を強調し、臨床的意思決定を導くための証拠を提供しています。

 

さいごに

 パーキンソン病の症状でお困りの方、またはご家族がこの病気で苦しんでいる場合は、メイトウホスピタルにご相談ください。専門医による診察・診断を行い、患者様ごとに治療計画を作成、リハビリの提供を行っております。

・ パーキンソン病外来
・ パーキンソン病のお問い合わせ
・ パーキンソン病患者様を対象としたサロンPeer(ピア)の情報

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参考情報

論文原文:https://www.bmj.com/content/386/bmj-2023-078341.long

研究の詳細(原文より抜粋)

【研究の対象期間】 2016年9月26日から2020年3月16日まで
【リハビリの実施場所】外来または自宅
【研究の対象者】連続的に募集されたパーキンソン病で構音障害を持つ388人の患者。(選抜は行われていない)
※専門医によって臨床的に定義された認知症のあるパーキンソン病患者、声帯緊張や喉頭手術の既往歴のあるパーキンソン病患者、声帯結節9を含む喉頭病理所見のあるパーキンソン病患者、過去2年間にパーキンソン病に関連した構音障害のためにSLTを受けたパーキンソン病患者は除外した。
【参加者】主に男性(286/388、74%)、約半数が70歳以上、3分の2弱が軽度(Hoehn-Yahr grade≤Ⅱ)パーキンソン病
【研究目的】パーキンソン病患者の構音障害に対する2つの言語療法アプローチ(LSVT LOUD、NHS言語療法)と言語療法なしの臨床的有効性を評価すること。
【方法】参加者を個人単位で、①LSVT LOUD群、②NHS SLT群、③SLTなし(対照)のいずれかに無作為に1:1:1の割合で割り付けられた。
*SLTなしに無作為に割り付けられた参加者は、医学的に必要と判断されれば、試験終了時または試験中にSLTを受けることができる。
*参加者が無作為に割り付けられた治療を守らなかった場合でも、参加者の取り下げは行わなかった。
*参加者は3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月でフォローアップを受けたが、これは治療後にNHSスタッフが使用する評価期間を反映したものであった。
*試験実施施設とそのスタッフは、イングランド、スコットランド、ウェールズにあるNHSで、すでにSLTサービスを提供していた。
【結果】LSVT LOUDを受けた人は、無作為化後3ヵ月の時点で、言語療法を受けなかった人よりも音声ハンディキャップ指数のスコアが低かった。LSVT LOUDは、参加者が報告した声の問題の影響を、音声言語療法なし群やNHS音声言語療法群よりも軽減する効果があった。NHSの言語療法は、言語療法なしと比較して有益性のエビデンスを示さなかった。
【その他情報】
※介入に費やされた記録された合計時間は、LSVT LOUD群が3倍長く、NHS SLT群よりも多くのセッション(平均1216分(標準偏差454)、中央値16セッション)でより短期間(LSVT LOUD 7週間、NHS SLT 11週間)で実施された。
※対照的に、参加者 1 人あたりの実際の治療時間は異なり、LSVT LOUD の平均 752 分 (標準偏差 287) に LSVT LOUD 群に与えられた他の治療の 15 分を加えたのに対し、NHS SLT群では 149 分でした。これは、LSVT LOUD の治療強度と頻度が高いことを反映している。

 

【表1】参加者の人口統計と疾患の特徴

  LSVT LOUD (n=130) NHS言語療法(n=129) 言語療法なし(n=129)
年齢(歳)、平均(SD) 69.9 (8.4) 69.7 (9.4) 70.2 (8.1)
性別      

男性/女性

91 (70%) / 39 (30%)

100 (78%) /29 (22%)

95 (74%) /34 (26%)

体格指数、平均(SD) 25.6 (4.4) 26.2 (4.5) 26.6 (4.7)
パーキンソン病の段階
パーキンソン病の罹病期間(年)、平均(SD) 5.8 (5.8) 5.1 (4.6) 6.1 (6.1)
 ホーエン・ヤール期≤2.0 78 (60) 83 (64) 73 (57)
 ホーエン・ヤール期2.5 17 (13) 10 (8) 22 (17)
 ホーエン・ヤール期3.0 29 (22) 31 (24) 33 (25)
 ホーエン・ヤール期≥4.0 6 (5) 5 (4) 1 (1)
レボドパ当量(mg/日)、平均(SD) 551.4 (342.8) 557.2 (365.1) 597.6 (416.9)*

SD = 標準偏差、LSVT = Lee Silverman の音声処理 LOUD

 

結果詳細も確認されたい方はこちらの原文を参考にされてください。

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